オーバーツーリズムは「多すぎる」ではなく「偏りすぎ」の問題|宿泊統計で考える
2025年、外国人の延べ宿泊者数の57%が東京・大阪・京都に集中しました。入国者数に上限を設けても、この偏りは直りません。必要なのは、混む場所と時間に価格をつけることです。

2025年、東京都の宿泊施設における外国人の延べ宿泊者数は6,011万人泊でした。鳥取県は20万3,600人泊です。
このコラムで言いたいことは、この差に尽きます。観光が戻ってきてから、京都の市バスの混雑や、2024年に富士河口湖町で富士山の眺めを隠す幕が張られた件など、「観光客が多すぎる」という話題が続いています。混んでいる場所の負担は本物です。ただ、日本全体が満員なわけではありません。訪日客が一部の場所に集中しているのであって、政策の議論は「偏り」の問題を「量」の問題として扱い続けています。
数字で見る集中
日本政府観光局(JNTO)によると、2025年の訪日外客数は4,268万人で過去最高でした。どこに泊まったかは、観光庁の宿泊旅行統計調査(2025年確定値)でわかります。外国人の延べ宿泊者数は1億7,992万人泊でした。
上位と下位を並べると、偏りの大きさがはっきりします。
確定値。比較のため鳥取県と、全国で最も少なかった福井県を載せています。
| 都道府県 | 外国人延べ宿泊者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 東京都 | 6,011万5,730人泊 | +5.8% |
| 大阪府 | 2,451万7,740人泊 | −3.5% |
| 京都府 | 1,829万1,230人泊 | +8.0% |
| 北海道 | 1,330万2,640人泊 | +29.0% |
| 沖縄県 | 921万1,700人泊 | +32.8% |
| 鳥取県 | 20万3,600人泊 | +72.0% |
| 福井県 | 10万8,550人泊 | +17.7% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)
総数だけで比べると人口の多い都府県が大きく見えるので、人口あたりでも見ておきます。2020年国勢調査の人口で割ると、住民1人あたりの外国人延べ宿泊者数は、京都府が約7.1、沖縄県が約6.3、東京都が約4.3、大阪府が約2.8、鳥取県は約0.4です。人口あたりで見ると負担がいちばん重いのは京都と沖縄で、鳥取との差は17〜19倍になります。
日本人の旅行者が押し出されている
この偏りは、日本に住む旅行者にも影響しています。同じ調査で、京都府の日本人延べ宿泊者数は1,487万人泊と前年より13.9%減り、2019年と比べると20.6%少なくなりました。外国人の1,829万人泊を下回っています。東京都でも日本人は10.8%減りました。
調査は理由までは示していません。宿泊料金の上昇は、考えられる理由の一つです。そして、このあとで述べるとおり、私たちは価格で混雑を調整すべきだと考えています。価格には痛みがあり、日本人の旅行者がすでにその一部を負担していることは、はっきり書いておきます。
数を減らすという発想は筋が悪い
混雑への対策として、まず思い浮かぶのは人数の上限です。登山道や庭園のような一か所に限れば、上限は機能します。富士山の吉田ルートは1日4,000人までとし、通行料4,000円を取っています。狭い登山道には向いた方法です。
国全体の入国者数に上限を設けようという政府の方針はありません。政府の目標は、2030年に年6,000万人です。それでも、混雑した場所では「数を減らせばいい」という声が上がりがちです。しかし、国全体で数を減らすのは筋が悪いと考えます。入国者が減れば、その減少は今の訪問先の比率どおりに各地へ配られます。東京は大きく減り、鳥取はほとんど減りません。もともと少ないからです。観光客を呼びたい町も、観光客に疲れた町も、同じように減ってしまいます。
しかも、分散はすでに始まっています。2025年の外国人延べ宿泊者数は、三大都市圏で前年比5.1%増、地方部で19.1%増でした。三大都市圏の割合は2023年の71.5%から66.3%に下がっています。上限は、ようやく動き始めた流れを止めてしまいます。

混む場所と時間に価格をつける
足りないのは、特定の場所の特定の時間です。11月の土曜日の午前10時の清水寺、そこへ向かうバスの座席、歩いて行ける宿の部屋です。足りないものは、価格か行列で配分されます。今の日本は、混む観光地をほとんど行列で配分しています。誰の時間も無駄になり、住民には何も戻りません。
京都市は一歩進めました。2026年3月1日から、宿泊税は1人1泊の宿泊料金に応じた5段階になっています。
| 宿泊料金(1人1泊) | 税額 |
|---|---|
| 6,000円未満 | 200円 |
| 6,000円以上20,000円未満 | 400円 |
| 20,000円以上50,000円未満 | 1,000円 |
| 50,000円以上100,000円未満 | 4,000円 |
| 100,000円以上 | 10,000円 |
負担できる人に多く求める、筋の通った仕組みです。ただし弱点が二つあります。一つは、混む11月も空いている2月も同じ税額であること。もう一つのほうが大きく、宿泊税は京都に泊まる人にしか届きません。京都市の令和7年京都観光総合調査では、観光客数6,279万人に対して宿泊客数(実人数)は1,659万人でした。おおよそ4人に3人は日帰りです。大阪に泊まって伏見稲荷と清水寺と嵐山を回る人は、同じバスと同じ道を使いながら、宿泊税を払いません。
京都市も手を打ってはいます。観光客が市バスに集中する一因だった700円の「バス1日券」の販売を2023年9月で終え、2024年6月からは京都駅と主要観光地を結ぶ「観光特急バス」を、通常の約2倍の500円で土日祝日に走らせています。混む路線に価格をつける、正しい方向の対策です。
直すべき点はここから見えてきます。混む時期は高く、空いている時期は安くすること。本当に混んでいる数か所では、時間指定の入場や、混雑する入口での料金、観光客が中心の路線の運賃などで、日帰り客にも負担を求めること。前例もあります。広島県廿日市市は2023年10月から、宮島を訪れる人に1回100円の「宮島訪問税」を、フェリーの運賃に上乗せする形で課しています。そして集めたお金を、バスや人員、二番手・三番手の観光地への足など、住民に見える形で使うことです。
これは観光客を減らす話ではありません。混む時間に価格がついていれば、朝7時半の同じお寺や、1時間先の静かな町のほうがいい旅になると、出発前に伝わります。
いちばん強い反論
反論は三つ考えられます。価格を上げると、京都に行きにくくなった日本の家族のように、お金に余裕のない人が締め出されること。地方には、多くの旅行者を受け入れる鉄道や宿、人手が足りないこと。そして、有名な場所が混むのは誰もが見たい場所だからで、価格をつけても人は動かず、お金が集まるだけかもしれないことです。
どれも本当です。一つ目は、価格を一律に上げるのではなく、最も混む時期に高くし、住民には割引を設ける理由になります。二つ目は、集めたお金を地方の交通や受け入れ体制に使う理由になります。三つ目がいちばん強い反論で、払ってでも来る人はいます。それでも価格があれば、早い時間や空いている日を選ぶ理由が生まれます。行列だけでは、その理由は生まれません。そして、混雑に必要なバスや人員の費用をまかなえます。
旅行する側にできること
政策を待つ必要はありません。東京・京都・大阪をめぐる旅なら、1泊だけでも三大都市圏の外に移してみてください。有名な場所は、昼を避けて朝早くか夕方に行くと、混雑をかなり避けられます。
日本には、まだ余白があります。その多くは、誰もが写真に撮る一部の場所の外にあります。そこへ旅行者を向かわせるのは、国への上限ではなく、混雑への価格です。

